1,インクルーシブ・ダンスとは
ボブさんには、未だに思い出す、ある原体験があります。重度の知的障がいと自閉症(ASD)を併せ持つ中学3年生の男児Aくんとの体験です。Aくんはほぼ毎日のようにパニックを起こし、幼児への他傷行為が見られる目を離すことのできない強度行動障害がある男児であり、担当であった筆者以外の援助者にとっても関わりが困難な存在でした。その彼があるとき、筆者が部屋に入るとそれまで見たこともない笑顔で筆者の両手をとったかと思うと楽しそうにスウィングやストレッチを始めたのです。そのときのAくんの恍惚とした楽しそうな表情はいったい何によるものだったのか、長年抱いてきた疑問でした。やがてAくんの対象は筆者のみでなく他の援助者にも広がっていきました(男女の別なく)。彼にとっては怖い存在であった援助者も、突然彼に仕掛けられると、苦笑しながらもつきあってしまっていたものです。

Aくんの行為の特徴は、ひとつは向き合っての身体接触をともなうものであり、二つ目は同じ行動を一定のリズムで繰り返すこと、三つ目はAくんの楽しそうな表情でした。
ASD児者の世界を理解するためには、こちらから彼らの世界に入ってみることです。のぞいているだけではなく、入ってみることです。そうすることで何か私たちと共通するものが発見できるかもしれません。
ここで紹介するシンクロダンスやダンスビックは誰にでも出来て楽しい時間、ホットな時間をプレゼントしてくれます。みなさんもやってみませんか(メタボ、ストレス対策にもなりますよ)。
2,ダンスビックの機能と効果
インクルーシブ・ダンスはどんな障がいがあっても楽しめるダンスです。
ボブさんはインクルーシブダンスとして「ダンスビック」をやっています。ヒップホップダンスの「ダンス」とエアロビックの「ビック」を合わせた言葉です。体を上下に動かす運動が多く、適度な運動量や難易度を調整しやすいヒップホップダンスと、同じ動きを繰り返すエアロビックエクササイズを合わせました。
見せるためのダンスではありません。みんなが一緒に楽しむためのダンスです。ですからうまい下手は関係ありません。音楽に合わせて自分の好きなように踊ることも全然ありです!

ダンスには心身の機能を発達させる働きがあります。それについて述べていきましょう。
1.発達障害とダンス療育(ダンスが脳に与える効果)
1)前頭前野を活性化させる
ダンスには「規則性のある動き」「上下左右異なる動き」「リズムに合わせる」「感情をイメージする」など、脳を活性化する要素があります。前頭葉のさらに前のほうにある前頭前野はすべての感覚の基盤で、目標達成のための行動を制御する「実行機能」や情報を保持し処理する「ワーキングメモリー」を司っています。
2)空間認知を育てる
周りの人ににぶつからないように踊ったり、自分の立ち位置を意識したり、どのような動きをしているかを無意識に判断する能力です。
3)体性感覚を育てる
自分の身体がどこでどうなっているか、どのような速さで、どの方向に動いているかがわかる能力です。さらにその動きを無意識に動かせるようになります(体が覚える)
*アイソレーション(体の一部分だけ、例えば首だけを前後に動かすなど)や振り付けの練習が効果的。
4)セロトニンの分泌を促す
セロトニンは脳全体をコントロールして、興奮しすぎたり注意が散漫にならないように調整する神経伝達物質です(有田 2013)。一定のリズムを5~30分取り続けるとセロトニンの分泌が促進され気持ちが安定します。リズム遊びを楽しみながら行うと効果的です。

5)感覚調整障害を調整する
感覚調整障害に「過反応」と「低反応」があります。
・過反応
怖がり、臆病で、自分の身体を急に動かされたり動かされそうなときや動かされそうな人がいるとに不安になります。「たかい、たかい」をいやがったり、滑り台やブランコ、遊園地の乗り物が苦手で、触れられるのを嫌がったり、抱っこや顔を拭かれる、髪を洗われるのを嫌がることがあります。ある種の食べ物、衣類を嫌がることもあります。
・低反応
身体を回転させたり、速くうごかされたりする遊びや、高いところを好み、危ないことでも平気でします。身体を揺する、回る、ぴょんぴょん跳ぶなどの常同行動がみられ、。しょっちゅう身体をうごかしているので落ち着きがなく多動に見えます。
触れられることや痛みに鈍感でなんでも口に入れたり触ったりすることがあります。力を入れる活動を好みます。
2.対応(療育)
感覚刺激に対する過反応や低反応を調整することから始め、様々な活動でうまく身体を使って動きを遂行できるように姿勢反応、身体知覚、運動企画能力の発達へと感覚統合の過程を援助します。
下の図のように下位の部分から身体を整えることによって徐々に高次の機能を育てていきます。まず、土の下の根っこの部分からお手当てを始めます。

http://heartfulday.jp/about/
身体を整えることによって高次の機能を育てる
1)前庭感覚を整える
自分の身体の動きを認識したり、地表との位置関係を把握する感覚が前庭感覚です。ダンスの場合、できるレベルをアセスメントして、その利用者にとってちょっと難しいステップに挑戦していくことで前庭感覚、前頭前野を活性化することができます。
2)固有感覚を整える
自分の身体の動きや身体の位置を感じる感覚を育てます。まず右手はどこ?右足はどこ?と身体部位について確認します。サポーターが右足に触れたり、場合によっては手で触れて動かしてあげる(アジャストメント)も必要です。
- プログラム
次は「ボブさんダンス教室」で実施している「ダンスビック・ワークショップ」の内容です(所要時間は約45~60分)。
プログラム ① ストレッチ(5分) ② 筋トレ~腹筋、腕立て伏せなど~(5分) リラックス(5分) ③ 集団セッション(シンクロダンス:触れる、または触れないダンス)~スウィング、ストレッチ、ハイタッチ ロッキング、ジ ャンピングなど~(8分) ④ ステップ練習~アップ、ダウン、サイドステップ、パドプレ、ボックスステップ、ランニングマン、ポップコーン・・・ (15分) ⑤ 振り付け~ステップの組み合わせ~(10分)・・・発表会やります ⑥ リラックス(5分)クールダウン(2分) |

参考:有田秀穂(2013「セロトニン欠乏脳~キレる脳・鬱の脳をきたえ直す~」NHK出版,生活人新書.)
3,インクルーシブ・ヨガ
ボブさんダンス教室ではヨガを取り入れています。
特に最近の研究ではヨガがASD(自閉スペクトラム症)療育に以下のような効果があることが実証されてきています。
・呼吸に気付く
・体の位置に気付く(前庭感覚)、
動きに気付く(固有感覚)→自分の身体の動かし方がわかる
・体幹を鍛えることで姿勢が安定する
・脳の前頭葉(行動、計画、実行を司る司令塔)を刺激する
・身体の左右を均等に使うことで右脳(直観的・創造的)・左脳(論理的・理性的)のバランスをとる
・身体を動かすことでシナプスのつながりを促進し、脳を活性化する
・身体をへの通して自己肯定感を育む
・身体の発達を促す
・骨の成長に合わせて筋肉を柔らかくする
・リラックスする力を身に着ける。リラックスを体験する。
・他者への思いやりや協調性を育む。技を競い合うものではない。人とくらべないことパートナーポーズやグループワークを通して
他者と協力することを学ぶ



* 「ボブさんダンス教室」は1~3月を除いて毎月1回行っています。
場所は会津若松市のパオパオ ノーマライゼイション交流館です(会津特別支援学校の近く)
障がいの有無、障がいの種別関係なくどなたでも参加できます。ぜひ一緒におどりませんか!
お待ちしております。
* 茅ヶ崎では茅ヶ崎市体育館で行っています。お一人でもどうぞ。仲間の輪が広がっていったらいいなと願っています。
